マネジメント実践編
2017/12/18

マネジメントとして部下の「仕事のやりがい」にどう向き合うべきか?

(写真=Micolas/Shutterstock.com)
(写真=Micolas/Shutterstock.com)

マネジメントと部下の「仕事のやりがい」


何をやるにも「やらされている」という顔をして、仕事にやりがいを感じていない部下。放っておくと部下本人はもちろん、上司として面倒を見る自分のやる気まで削がれてしまう、と感じる方もいるかも知れません。


上司としてはやりがいを持って仕事をしてもらいたいでしょう。しかし「出世」「昇給」がほぼ万人に共通のモチベーションだった時代ならともかく、現代では個人のモチベーションは多様化しているとも言えます。本稿では部下の「仕事のやりがい」に対するマネジメントの考え方を
3種類紹介します。

「キャリア・アンカー」を考慮したマネジメント


最初に紹介するのは、
1978年にマサチューセッツ工科大学のエドガー・ヘンリー・シャイン教授が提唱した「キャリア・アンカー」という考え方です。アンカーとは船の錨(いかり)のことで、キャリア・アンカーとは各々のキャリア選択において基軸となる価値観や欲求・動機・能力を指します。「こうありたい」「こうなりたい」というセルフイメージと言い換えても構いません。シャイン教授はこのキャリア・アンカーを以下の8つにカテゴライズしました。

カテゴリ 概要 マネジメント方法(例)
専門・職能別 専門家志向の持ち主。特定の仕事でスキルを発揮することに価値を置く。 外部で専門性の高い研修を受ける機会を提供する
全般管理 出世志向の持ち主。専門性よりも経営に必要な全般的な管理能力に価値を置く。 自社の経営方針に関して定期的に意見を求め、内容へのフィードバックを行う
自律・独立 自分の流儀や自分のペースで仕事を進めることに価値を感じる。 責任範囲や完了期限を明確にした上で、詳細な実行方法については自由にさせる
保証・安定 堅実な人生に価値を感じる。 責任範囲を明確にした上で、軌道に乗っている業務、事業を任せる
起業家的創造性 新しいことやものに挑戦することにやりがいを感じる。 新規事業を任せる
奉仕・社会貢献 社会を良くすることにやりがいを感じる。 事業の社会的意義を伝える
純粋な挑戦 不可能に見える課題にチャレンジすることにやりがいを感じる。 困難なプロジェクトを任せる
生活様式 仕事と私生活のバランスを重視する。 責任範囲や完了期限を明確にした上で、時間管理については自由にさせる

部下がどんなキャリア・アンカーを持っているかを把握する方法としては、本人との会話や対話の中で探ったり、場合によってはキャリア・アンカー理論の話をして「君が大切にしているのはどんなことだ?」と尋ねたりする方法が考えられます。

こうして把握した本人のキャリア・アンカーと、今部下が担当している仕事を間接的もしくは直接的につなげてやれば自ずとやりがいを持てるようになるはずです。例えば「純粋な挑戦」タイプのキャリア・アンカーの持ち主ならば、今まで会社や部署が避けてきたような困難なプロジェクトを担当させたり、新規事業のリーダーに抜擢したりといった方法が考えられます。

用語集リンク:キャリア・アンカー

「モチベーション3.0」に基づいてマネジメントする


次に紹介するのは、
2009年に元アル・ゴア副大統領のスピーチライターであるダニエル・ピンクが提唱した「モチベーション3.0」という考え方です。ピンクは仕事におけるモチベーションを以下の3つのバージョンに分類しています。

モチベーションのバージョン 概要
モチベーション1.0 生存目的の動機。食うために働いている状態。
モチベーション2.0 賞罰(アメとムチ)から生まれる動機。お金や出世、賞賛のために働いている状態。
モチベーション3.0 自分の内面から生まれる動機。自己実現のために働いている状態。

「出世」や「昇給」といった動機付けはモチベーション2.0を引き出すためのものです。しかしピンクは、実証テストを通じてこうしたアメとムチのマネジメントには以下の欠陥があると判明している、と指摘しています

内発的動機づけを失わせる。
かえって成果があがらなくなる。
創造性を蝕(むしば)む。
好ましい言動への意欲を失わせる。
ごまかしや近道、倫理に反する行動を助長する。
依存性がある。
短絡的思考を助長する。

これに対して、モチベーション3.0は自発性や自律性をアップさせ、本人のやりがいだけでなく組織のパフォーマンスアップにも貢献するものとされます。ピンク氏は人々を縛るより、解放することが重要、と語ります。時間や場所ではなく、「なぜ働くのか」「なんのために生きるのか」といった目的を共有することにある。

例としてトヨタ自動車の「カイゼン」の取り組みが上げられています。いい製品を世に送り出すという「目的」を全員が共有しているため、問題が発生した際に社員が自主的にラインを止めることができるという点に着目してのことです。

ピンク氏はマネジメントがモチベーション3.0をすぐに実現することは難しいということを認め、第一のステップとして「一気に進もうとしない」ことを述べています。まず一日だけ「フェデックス・デー」(丸一日、自分の好きな企画に時間を費やし、24時間後にそれを発表する)を試すなど、少しづつ、着実に変化を起こすというものです。

用語集リンク:モチベーション3.0

マネジメントは部下の「仕事のやりがい」に関与すべきではない


ここまで「部下にとってのやりがいに、上司はどう関与するべきか」を考えてきました。しかし実は「そもそも部下にとってのやりがいに、上司は関与すべきではない」と考える方が、マネジメントの観点からは効率的と言えるかも知れません。最後に
「識学」に基づく考え方を紹介します。


個人のやりがいに会社が合わせてしまうと、その後不必要なコストやトラブルを呼び込む、とは考えられないでしょうか。組織における個人の本来の位置付けは「決められたルールの下、与えられた役割を全うするための存在」です。しかし個人のやりがいに組織が合わせていくと個人は「会社は自分に合わせてくれるもの」という錯覚を起こし、本来の位置付けを忘れてしまいます

例えば、ずっと管理部門だった人がお客様と直接仕事がしたいという理由で異動希望を申請してきた場合、その異動希望を受理するとどうなるでしょうか。自分のやりがい、やりたいことに会社が合わせてくれたと考え、その後も会社の利益のためではなく、個人のやりがいに基づいて会社に意見を言える、会社を変えられる立場だと錯覚してしまいます。

すると組織の皆が自分のやりがいを主張するようになります。マネジメント側は利害の衝突を避けるための各社員の調整や「なぜあの人には合わせて私には合わせてくれないんだ」といった疑念への対策を立てなければなりません。

世間一般ではあたかも部下のやりがいを引き出すことが上司の役割のように考えられていますが、実はこれは大きな間違いとも言えます。組織における個人のやりがいは個人自らが見出すもの。上司が関与するべきではないのです。上司の仕事は自分の役割を全うするとともに、部下が組織における部下自身の役割を理解するように策を打つことなのです。

参考リンク:
伸びる会社は「これ」をやらない!

【識学】モチベーションとマネジメントに関する、大きな錯覚とは?
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